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*** かたり亭 ***

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岬さんのページからもらっちゃったもんね

〈臥龍亭ネット句会〉に誘われて…。 (1) 03月11日(木)

まき~♪さんが、お父さんのために〈臥龍亭ネット句会〉をやっています。いうなれば、お父さんの句のなかから皆さんに選句をしてもらおうというこころみです。
臥龍亭さんの句は、けして川柳巧者とはいえませんが、律儀に生きてきた男の哀感がにじみ出ています。僕にも参加するようにということですから、つたない読みですが駆け足で鑑賞してみましょう。
いつもの僕の鑑賞らしくないかも知れませんが、川柳人の方々は少し眼をつぶっていてくださいな。


1 捨石を拾う神あり新春の夢

 「捨てる神あれば拾う神あり」を一句にした、まずは小手調べといういころか。

2 恙なく生きてちびれた革鞄
 
 慎ましく生きて、一所懸命子育てをしたお父さんなんでしょうね。
 「ちびれた革鞄」から、生きてきた姿が伝わってきます。

3 丹精の甲斐菊も笑み父も笑み
 丹精込めて大輪を咲かせた菊はさながら笑っているように思えたことでしょう。
 そして父上も会心の笑みを浮かべている、わかるなー。

4 たった十円が胸に胸を張って行き
 えーと、これは何年に作った句でしたっけ。年代によって十円の解釈が違ってくると思いますが、とにかく十円が胸に入っているだけで胸を張ったともとれますが、もう一歩踏み込んでみると、この十円は「赤い羽募金」の十円のことかもしれませんね。

5 片意地の稼ぎペタルを強く踏み
 職場に自転車で通っていたのかな。会社でのもやもやも通勤の行き帰りの自転車のペダルを強く漕ぐことで、晴らしている。忍耐強かった人でしょう。

6 春雨に打たれて私は造花です
7 自嘲自負二十五年を唯生きて
8 海の青さに僕の悪魔の悪が溶ける
9 春の野火自分の殻は何故燃えぬ
10 媚知らず野生でもない自分の殻の中
11 自分の殻の中で自分だけの詩

 これはどれも自らの心象を書いた句ですね。青春時代の鬱々とした気持ちを一行にしようと格闘している姿が伺われます。
 11番の句に、美しい繭をつくろうとして繭の中にこもっている詩心を感じました。

13 嫁が来て古家にもう一つの歴史
 ですね。まきさんのお兄さんの結婚のことなのかな。子どもたちにバトンタッチした安堵感が感じられます。

14 古家に嫁が来てから風みどり
 「風みどり」がいいね。平和でさわやかな○○家の初夏の一こま。

15 夏が逝く若さが欲しい舗道が固い
16 ツイてないからあしたがこわい夜は孤独
17 夜が来てあしたがこわいスランプです
18 やらないから負けて負け犬空につば
19 唯我独尊負け犬になって一人ぼち
20 権力にぶつかりころげ負け犬キャンキャン
21 家族主義からはみ出て人間孤立
22 利益追求働き蜂の悲劇

 一家の大黒柱として働いていても、しのびよる老いへの畏れ、社会での疎外感。けっこう反骨の人だったのかもしれません。誰もが、平凡そうに生きている裏側にはくっきりとした影がある。当たり前だけれど、弱みは自分に自信がなくては書けないもの…。
 

23 絵日記の花火がでかい夏休み
24 小学二年生 まだ赤ちゃんの昼寝顔
25 せみが来て鳴いて夏休みが終わる

これは、まきさんの小学生時代を映した句でしょう。お父さんにとってさぞかしかわいい娘だったことでしょう。この頃は。
 
26 貧すれば鈍す妻とのいさかいも
27 妻とのいさかいに負けて野良犬なり
28 気ばかりの負けん気妻は泣いておる
29 何時廻る春へ遠吠へす僕は独り
30 僕が豊かだったら家の中は温かいだろう

 何か身につまされるなー。どこの家庭にもこんな時代があって、ささやかな幸せがあって、一家の歴史がつくられてゆく。

31 ― 歓喜し僕のデスマスクがわらふ
32 自らの不徳追い詰められる他はなし
33 ライバルが死んでも僕には春は来ず
34 僕は死ぬ百万両の夢をみながら
35 貧乏に負けて家灯へ背を向けし

 昭和20年代ということでしょうね。この時代は日本中皆貧乏だった。大作家吉川英治も売れる前は貧乏川柳作家でした。「貧しさも余りの果ては笑ひ合ひ」という句を残しているくらいですから、貧乏は句の大事なネタだったことでしょう。

36 独り聞く除夜へ隣家のさんざめき
37 レモンティ除夜一人聞く三十娘

 この三十娘とは、まきさんではないよね、お母さんの三十歳だった頃かな。独りとかなんとかいいながら、この三十娘が家にいた理由は…。それから十月十日可愛い娘が産まれたとさ―。
 
38 拒否できぬ年の流れに身の浮き沈み
39 何事の期待おとずれもなき日々へ

 そして、娘も嫁ぎ老いという孤独を噛みしめている父。

40 晴れ着ふと之は他人だったころの紅

ちょっと意味深な句もあって、けっこうではないですか。

41 墓石に蝉の抜け殻そっと生き

 蝉の抜け殻に、自分の人生を重ねて述懐しているのかも…。僕もこの句が一番だと思います。

お粗末でした。



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